ホルモン療法(内分泌療法)とは
ホルモンの影響により増殖するタイプのがんに効果を示す、がんに対する薬物療法のひとつ。
作用機序
がんは、加齢や生活習慣、特定の遺伝子の異常などさまざまな要因が組み合わさって発症することが知られているが、特定のがんは性ホルモンの影響を受けて成長することが分かっている。ホルモン療法は、患者の体内のホルモンの生成を減少させたり、がん細胞へのホルモンの働きを弱めたりすることで、がん細胞の成長を阻止、もしくは進行を遅らせることが期待できる 。
適応症
ホルモン療法は、ホルモン受容体陽性のがんに効果が期待できる。対象となる主ながんは以下のとおり。
- 乳がん
- 前立腺がん
- その他のがん(子宮体がん、甲状腺がんなど)
これらのがんは性ホルモンの影響を受けやすく、ホルモン療法が適している。例えば、日本人の乳がんの多くが女性ホルモン(エストロゲン)を取り込んで増殖する性質をもつタイプの乳がんとされている。
子宮体がん(子宮内膜がん)でもホルモン療法が行われることがあるが、治療効果が限られるため、適応となるのは初期の子宮体がんで、一部のタイプに限られる。
また、性ホルモンではないが、甲状腺がんの一部では甲状腺刺激ホルモンを抑制するために、十分な量の甲状腺ホルモン薬を内服することがある。
種類
ホルモン療法は、(1)患者の体内のホルモンの生成・分泌を減少させる方法、(2) がん細胞へのホルモンの働きを弱める方法の大きく2つがあり、乳がんと前立腺がんについて詳細を示す。
乳がん
- 体内の女性ホルモン(エストロゲン)の生成を減少させる
– LH-RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)アゴニスト製剤
– アロマターゼ阻害薬 - がん細胞へのホルモンの働きを弱める
– 抗エストロゲン薬
前立腺がん
- 体内の男性ホルモンアンドロゲンの一種であるテストステロンの生成を減少させる
– LH-RHアゴニスト製剤
– Gn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アンタゴニスト製剤
– CYP17阻害薬 - がん細胞への男性ホルモンの働きを弱める
– 抗アンドロゲン薬
副作用
ホルモン療法は、強制的にホルモンの生成を減らす、または働きを止めることによる副作用が伴うことがある。以下は一般的な副作用の例(ホルモン療法の副作用の出方はそれぞれの患者によって異なる)。
- ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)
- 性機能障害
- 関節痛や筋肉痛
- 疲れやすさ
- 体重の変動、肥満、糖尿病
- 骨粗しょう症のリスク増加
【表】ホルモン療法の作用と副作用