素材研究

紅麹②-2紅麹:米粒内での有用成分生成過程の可視化

紅麹

本サイトで掲載している情報は、一般的な素材にも含まれる成分に関する学術研究成果です。特定の製品・食品の効果を保証するものではありません。本研究成果も限られた条件下での成果であり、特定の製品・食品を摂っても、同じ効果が得られるというものではありません。

紅麹②:薬理と成分に関する研究

2.米粒内での有用成分生成過程の可視化

【研究2】“紅麹菌”による米粒内での有用成分生成過程の可視化

概要

“紅麹”は米などの穀類にMonascus属糸状菌を繁殖させた鮮紅色の麹で、食用色素や健康食品として広く利用されています。一方で、中国の古典的薬学書「本草綱目」に「消食活血」「健脾燥胃」等の効果があるとの記載があり、中国や台湾では古くから漢方としても利用されてきました。近年になって、紅麹からコレステロール低下作用を持つモナコリンK、コレステロールや血糖値、血圧低下作用を持つモナスシン、抗酸化作用のあるルブロパンクタミンなどの有用成分が分離同定されており、これらが伝統的に言われている効用を支えていると考えられています。しかしながら、これらの有用代謝物がいつ、どこで増えるのかについてはよく分かっていませんでした。そこで、本研究ではイメージング質量分析法を用いて紅麹における二次代謝物の可視化を行い、局在の様子を明らかにすることを目的に、MALDI-MSIを用いた分析を行いました。その結果、モナコリンKと色素成分とで局在に違いがみられること、発酵が進むにつれてモナコリンKは内部に蓄積していくことが明らかとなりました。

試験方法

発酵43日目のサンプルでのMALDI-MSI分析により、モナコリンKと色素成分(モナスシン,ルブロパンクタミン)の局在の様子を、発酵初期(1日目)、発酵中期(23日目)、発酵後期(43日目)のサンプルでの分析により、モナコリンKの局在変化を確認しました。

① 切片製作:“紅麹米”を10%ゼラチンで固め、40μm厚でスライス
② サンプル作成:分析のため紅麹米にイオン化補助剤を噴霧(色素成分はイオン化補助剤なし)
③ 分析:用意したサンプルをイメージング質量顕微鏡(iMScope TRIO, 島津製作所)で分析
※質量顕微鏡:顕微鏡により観察された光学像と質量分析により測定された分子の分布を重ね合わせて解析できる分析装置

①切片作製 固定(紅麹米、ゼラチン、紅麹米(スライス)
②サンプル作成 噴霧(イオン化補助剤、モナコリンK)
③解析 データ取得

結果

モナコリンKと色素成分(モナスシン,ルブロパンクタミン)との間に局在の違いが見られました。モナコリンKは米の内部までその存在が認められるのに対し、色素成分は比較的表面に偏って存在していることが確認されました。
発酵に伴うモナコリンKの局在の変化の追跡では、発酵が進むにつれてモナコリンKが内部に蓄積していることが分かりました。
さらに、高解像度での可視化分析により、紅麹菌の子嚢果にモナコリンKが局在し、それが時間経過に伴い増えていることが分かりました。

モナコリンKおよび色素成分の局在
モナコリンK コレステロール低下作用
モナスシン(色素成分) コレステロール・血糖値・血圧低下作用
ルブロパンクタミン(色素成分) 抗酸化作用
モナコリンKの分布推移(相対強度)
※Day43日目のイメージング画像中のモナコリンKの強度のうち、最も大きな強度を100%として各ポイントの相対強度で比較を行いました。
子嚢果におけるモナコリンKの分布と推移

考察

発酵が進むにつれ、有用成分であるモナコリンKは内部蓄積していくことが明らかになりました。二次代謝産物のシグナルが強く観察された領域には子嚢果が多く、実際に子嚢果にモナコリンKが検出されことから、紅麹菌は子嚢果にモナコリンKを移送または分化により蓄積しているか、あるいは子嚢果でモナコリンKを合成している可能性が考えられました。
この結果から菌体をより内部に浸潤させることで、モナコリンKの生産性を向上させることができるということが考えられます。今回の発見は、今後のより有益な“紅麹”原料の開発につながる研究成果であると考えられます。

発表先

【学会発表, 口頭】南牧歩, 比嘉悠貴, 福崎英一郎, 新間秀一, 質量分析イメージング法を用いた紅麹における有用二次代謝物の可視化技術の確立, 第71回 日本生物工学会, 2019/9/18.
【論文(査読アリ)報告】Yuki Higa, Makiho Minami, Eiichiro Fukusaki and Shuichi Shimma (2021) Mass spectrometry imaging reveals localization of secondary metabolites in red yeast rice fermentation. ACS Food Science & Technology, 1814–1820

学術情報

①血中脂質・コレステロールに関する研究

②薬理と成分に関する研究

③安全性に関する研究

④美味しさに関する研究

用語の解説:
  1. 紅麹

研究素材の紹介