紅麹②:薬理と成分に関する研究
1.発酵に伴う成分量の変化
【研究1】紅麹米の発酵過程における、外観・有用成分量の経時的分析
概要
紅麹は米などの穀類にMonascus属糸状菌を繁殖させた鮮紅色の麹です。食品分野では、液体培養法で製造された紅麹色素が世界で広く利用されています。一方、伝統的な固体培養法により製造された紅麹は、中国・台湾において、酒類醸造、着色着香料、滋養食・薬膳料理として、また、国内(沖縄)でも豆腐ようとして独自の食文化に利用されてきました。
本研究では、食品原料としての紅麹の機能性および品質確保を目的として、紅麹米の形態変化、機能性成分や色素成分などの代謝生成物の経時的分析を行い、紅麹発酵における米の外観変化および代謝生成物の経時変化を可視化しました。
試験方法
試験には、健康食品原料として国内外で利用されている紅麹菌Monascus pilosusを用いました。
蒸気滅菌した蒸米にMonascus pilosus NITE BP-412株を接種し、温度30℃、初期水分率42%で固体培養を開始しました。培養温度は初期4日間を30℃、4日目以降を22℃として計43日間培養を行い、時間経過とともに撮影とサンプリングを行いました。
分析対象はモナコリンK、GABA、モナスカミック酸、色素成分(モナスシン、モナスシノール、ルブロパンクタミン)。採取した生紅麹米からメタノール抽出でサンプル調製し、ODS系C18カラムを使ったLC-MS分析に供試しました。モナコリンKに関しては韓国FDA法に従い、調製・分析を実施しました。
結果
培養2日目頃から徐々に菌糸の生育が始まり、培養4日目頃から色素生産が開始されて、経時的に薄い朱色からえんじ色に変化し、培養最終(40日以降)には赤褐色まで濃色化することが確認されました。
固体培養の紅麹米の中に生成される種々の機能性成分や色素成分など、代謝生成物の経時変化を明らかにすることができました。
各種成分(モナコリンK、機能性アミノ酸類、色素類)は一斉につくられるのではなく、産生されるタイミングやそのピークがそれぞれ異なっていることが確認されました。
考察
各種成分が常に一定量作られているのではないことから、紅麹菌が外敵に対抗したり、自身の栄養源として用いるために、作る時期・量を調整している可能性が考えられます。
今回の結果からは、たとえば、紅麹菌は、生育前半では抗菌活性を持つモナスカミック酸、生育後半ではコレステロール合成阻害活性を持つモナコリンKを主に利用して外敵に対抗している、栄養成分が欠乏する生育後半ではGABAを窒素源として利用している、モナスカミック酸も中期以降は若干減少するため、窒素源として利用される可能性があるものの、外敵に対抗するため、その窒素源としての利用は限られている、など、いくつかの仮説が考えられますが、これらの立証のためには今後さらなるデータの蓄積が必要であると考えます。
このような知見から、紅麹菌の伝統的な固体発酵法がさらに改良され、発展し、今後のより有益な紅麹原料の開発につながることが期待されます。
発表先
【学会発表, 口頭】久野智弘, 紅麹固体培養プロセスにおける有用物質生産の経時的分析, 第3回 発酵と酵素の機能性食品研究会, 2018/6/30.
【論文(査読アリ)報告】H. Fukami et al. (2021). A Review of Red Yeast Rice, a Traditional Fermented Food in Japan and East Asia: its Characteristic Ingredients and Application in the Maintenance and Improvement of Health in Lipid Metabolism and the Circulatory System. Molecules, 26(6), 1619.
学術情報
①血中脂質・コレステロールに関する研究
②薬理と成分に関する研究
③安全性に関する研究
④美味しさに関する研究
- 用語の解説: