紅麹②:薬理と成分に関する研究
1.有用成分モナコリンKの吸収性の検証
【研究1】紅麹中のモナコリンKとモナコリンK標準品における血中動態の比較
概要
紅麹は、中国の古典的医薬書である本草綱目に収録されており、古くから重要な薬の一つとして珍重されてきました。近年、紅麹から血清コレステロール低下作用のある有効成分ロバスタチン(モナコリンK) が発見されました。ロバスタチン(モナコリンK)は、吸収性が低いため、高コレステロール血症に対して処方される場合、服用量を20~80mgと多くする必要があるため、安全性、経済性の面で大きな課題となっています。一方、いくつかの臨床研究により、紅麹として投与した場合、ロバスタチン(モナコリンK)の含有量が医薬品としての有効量(20~40㎎/日)の1/4程度(5~6㎎/日)であるにも関わらず、同等のコレステロール低下作用があることが示されています(1)。また、我々のこれまでの研究においても、紅麹100㎎(モナコリンK2㎎含有)/日の投与でLDL-コレステロールを下げることが確認されています(2)。このように紅麹として投与した場合にモナコリンKが少量でもコレステロール低下作用が発揮されるのには、紅麹に含まれるモナコリンKの吸収性の高さが関係している可能性が考えられます。そこで、本研究では、紅麹として投与された場合のモナコリンKの吸収性を確認するために、モナコリンK標準品、および同量のモナコリンKを含む紅麹をSDラットに投与し、モナコリンKの血液中への移行量を観察しました。その結果、紅麹として投与したほうが、モナコリンKのみを投与した場合に比べて、モナコリンKの吸収性が数倍高いことが明らかになりました。
(1)CH Chen et al. (2013) Improved dissolution rate and oral bioavailability of lovastatin in red yeast rice products. International Journal of Pharmaceutics, 444, 18-24.
(2)庄司哲雄 他.(2008) 健常人を対象にした紅麹のコレステロール低下作用―ランダム化二重盲検群間比較による用量検索試験―.日本臨床栄養学会雑誌, 29, 425-433.
試験方法
項目 | 内容 |
対象 | SDラット(雄、7週齢) 各群N=3 |
試験品 | モナコリンK標準品(ラクトン型、純度99%)、および同量のモナコリンKを含む紅麹(固体培養法により製造) |
方法 | 2群(モナコリンK標準品投与群、紅麹投与群)に分けたSDラットに試験品を投与(ともにモナコリンKとして40㎎/㎏の単回投与)。投与前、投与後1時間、2時間、3時間、4時間に採血を行い、得られた血液を処理後、LCMSMSにて定量分析を行った。 |
測定項目 | 血中モナコリンK(酸型、ラクトン型)濃度 |
結果
モナコリンK標準品(モナコリンK 40mg/kg)投与群、紅麹(モナコリンK 40mg/kg相当)投与群ともに多くは血漿中にモナコリンK酸型として検出されましたが、投与後4時間後までの最大濃度(Cmax)、総吸収量(AUC0-4h)ともに、モナコリンK標準品投与群に比べて紅麹投与群の方が数倍高く検出されました。
考察
紅麹にはモナコリンKの血中への吸収を促進する他の成分が存在することが示唆され、その薬効もモナコリンK単独摂取とは異なる可能性が考えられました。多様な成分を含む紅麹には、それらの成分の相乗効果による高い効能も期待されます。
発表先
【論文(査読アリ)報告】H. Fukami et al. (2021). A Review of Red Yeast Rice, a Traditional Fermented Food in Japan and East Asia: its Characteristic Ingredients and Application in the Maintenance and Improvement of Health in Lipid Metabolism and the Circulatory System. Molecules, 26(6), 1619.