サイトカインとは
細胞(主に免疫系細胞)から分泌されるタンパク質・生理活性物質の総称で、細胞間の情報伝達を担っている。細胞が体内で相互に作用する方法は2つあり、1つには細胞同士が接触・結合する方法、もうひとつがサイトカインを介して作用する方法である。サイトカインによる情報伝達では、近接する細胞同士のみならず、サイトカインが血流に乗って遠隔臓器の細胞まで到達することで、離れた細胞同士でもシグナルを伝達することが可能になる。
サイトカインは免疫や炎症に関係するものが多く、TNF-α(tumor necrosis factor-α、腫瘍壊死因子)やIL-6(インターロイキン6)など炎症症状を引き起こす炎症性サイトカインと、逆にIL-10(インターロイキン10)やTGF-β(transforming growth factor-β、形質転換増殖因子)など炎症症状を抑制する作用をもつ抑制性サイトカインがある。
がん免疫に関与するサイトカイン
がん免疫に関与するサイトカインは、直接がんを殺傷する作用を持つもの、がん免疫応答を活性化させるもの、逆に抑制作用を持つものなど多様な種類がある。1980年代にインターフェロンのがん細胞殺傷効果が注目され、サイトカイン療法として一部のがんへの治療薬として承認されている。
がんに対する免疫応答に関係する、特に代表的なサイトカインとして、IFN-γ(インターフェロンガンマ)やIL-10などが知られている。がんに対する免疫応答は、NK細胞や樹状細胞、CTL(細胞傷害性T細胞)などの免疫細胞がその中心を担っているが、NK細胞やCTLから産生されるIFN-γはこうした免疫細胞を活性化させてアクセルを踏む役割を果たしていると考えられている。一方、IL-10は免疫細胞の活性化を抑えるなどブレーキをかける役割をしており、免疫が正しく働くためにはこれらのバランスが重要である。
表 がん免疫に関与する代表的なサイトカインと主な作用
分類 | サイトカイン名 | 主な作用 |
---|---|---|
がんを直接殺傷する | IFN(インターフェロン) | 抗腫瘍効果が認められており、インターフェロン製剤としてIFN-α、IFN-β、IFN-γがいくつかのがんで承認されている。 |
IL-1(インターロイキン1) | がん細胞への直接・間接的な殺傷作用を持つ。IL-1による炎症環境ががん促進に働く場合もある。 | |
TNF(腫瘍壊死因子) | がん細胞を細胞死に誘導する炎症性サイトカインで主にTNF-α、TNF-β(LT-α)、LT-βがある。TNFスーパーファミリーとして知られる4-1BBL、OX40L、GITRLなどは免疫チェックポイント関連タンパク質としてがん免疫応答に関わっている。 | |
がん免疫を促進する | GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子) | 樹状細胞などの抗原提示細胞の増強・活性化を促すため、がんワクチンのアジュバントなどとして利用される。 |
IFN | 直接の抗腫瘍効果に加えて、マクロファージ、NK細胞などの活性化や抗原提示細胞の機能強化など、がん免疫の促進にも関わっている。 | |
IL-2 |
がんを攻撃するCTLやNK細胞を活性化させる。血管肉腫や腎がんへの医薬品としても承認されている。 |
|
IL-12 |
ヘルパーT細胞やCTL、NK細胞といった抗腫瘍に関わる免疫細胞を活性化し、IFN-γの産生促進にも関わるが、副作用が大きく治療法として研究途上。 |
|
IL-15 | IL-2と同様の働きを持つが、IL-2と違い、T細胞の抑制機能を持たないため、免疫賦活に有効なサイトカインとして研究が進められている。 | |
がん免疫の抑制に関わる | M-CSF / CSF-1(マクロファージコロニー刺激因子) | がん微小環境を構成する主要物質のひとつである腫瘍関連マクロファージを維持・増殖させる。 |
IL-6 | 直接的ながん増殖促進と、がんに対する免疫反応を抑制する働きを示す。 | |
IL-10 |
がん微小環境に多い腫瘍関連マクロファージから産生され、免疫活性を抑制するサイトカインとして知られている。 |
|
IL-17 |
がんの悪性化や免疫チェックポイント阻害薬の不応答、がんの血管新生などに関わっている。 |
|
TGF-β(形質転換増殖因子) | もともとがん抑制因子として考えられていたが、最近では、腫瘍環境内で制御性T細胞を誘導して、がんを攻撃するT細胞を抑制する機能が報告されている。 |